デニム・ブルーママン20の21

 結婚して苦労するのは目に見えていました。なぜなら、みずからに妥協の栞を入れないといけない。背が高く、弁論が闊達でなければ…しかし、ミチがいなくなって、この男性はおしゃべりであることが判明してきます。私は、のべつ間もなく話すタイプは大嫌い…しかし、山登りを終えたらふたりは別れる。そこまで悩む必要はないと決め込み山登りに息を吐きます。途中茶店がある一休み出来る場所に来て相手をまじまじと見つめてまたがっくりきます。頭髪が後退している。これは先行き禿げるのは見て取れました。足は疲れて来るし、相手は話すことを止めない。私は、ミチの真意を計りかねました。一体全体なぜ?お兄さんを、私に差し向けたの?疑問符すら湧いて来ていました。

デニム・ブルーママン20の20

 バス停に着き私は、上背の高い男性を探します。どこにも見当たらない。ひょっと後ろを見たらミチが前に出て来て、男性を紹介しました。人の良さそうな男性を見て私は、まさかの坂を登っていました。あ、あ、そう言いかけて、男性は、尻込みしました。ミチは果敢にも、兄は、あなたに会えてとても興奮してるみたい…私より9歳上になります…と。速く挨拶して…と男性に、促しています。こ、こんな、べっぴんさんに会えるなんて、ゆ、夢のようです♪おべんちゃらが言えない自分とのコントラストを抱きました。私は、登山だけを済ませてさっさか帰ろうと思っていたのです。男性はミチより背が低い。負の決定打でした。

デニム・ブルーママン20の19

 蛍茶屋まで電車で行き、バスを待ちました。まっ暗なトンネルを過ぎたらそこには東長崎は開けている…私には実際、自信のなさから来る迷いはありました。教員を続行する意志はあっても、本当に自分の子供を育むことは出来るのか?仲間教師たちのにぎやかな子育ての話に触発はされても、事実は未知数です。私には男性が本来は持っていれば役に立つ処世術はあったものの矢面で、それを、いかんなく発揮している女性をまだ見てはいなかったのです。

デニムブルー・ママン20の18

 

今、みんなが、平成、昭和、大正を思うように、私も、大正、明治、その前…江戸時代まで遡り鑑みる必要がはあったのです。ミチのお母さんは明治22年生まれと聞いて、私は咄嗟に、江戸時代と被ることに愕然とします。江戸ならまだ、幸先は良かったのに、明治維新は日本の軍国主義に拍車を掛けました。止まらない戦車です。しかし戦後は、民主主義を執り、平和な日本になりつつありました。ミチは矢上のバス停でお兄さんとベンチに座り待っている約束です。バスに揺られながら私は、踵を返すことも、頭には描きました。途中下車して逃げることは出来たのです。

デニム・ブルーママン20の17

 

私が学んだ実生の哲学は存在しました。父が満足には、自分の意見も言えず海の藻屑になったように、現実の社会には大きな裂け目が存在すること…しかし、それを見たら、みんなが、神経を尖らせ、日本のことを全く考えてないと、騒ぎ出すことは、私には分かっていました。両親から受けた礼の教育を私等は基本にして戦後を歩みました。一切疑問符がなかった…と言えば虚言になる。ゆえに、代弁者を私が必要としていたのは、理解出来ると思います。私では、上手く表現が出来ない。まさか…私が時代の反逆児を産むなど、その頃は思いません。教え子に憧れる生徒がいました。子供が生まれたら……私は、我が子につけたいほど、理想の生徒でした。

デニム・ブルーママン20の16

 母を亡くしてからの私は、真夜中になると、心底怖い思いに打ちひしがれ泣いてばかりいました。これは、天涯孤独の通常なんだ…そう心して掛かるも、未来を想像すると、伴侶のある勢いは、全然違うかもな…に行き着く…。ミチは、亡くなった父親を大層尊敬していて、同居する母親に全部のお給金を渡していることにも現れているように、未亡人になったお母さんを、ミチ、兄、そして、そのお姉さんが支える構図は見て取れました。お姉さんはひとつ上で小学校教員の出戻りと聞きました。最初は、ふたりで新生活をスタートさせても良い♪とのミチの提案に、私は、好感を抱きました。自宅は39坪の二階建の家だと聞いていました。しかし、そこにこれだけの人が棲むとなると、大変なこと…ため息も漏れて来ます。私は、孤独がどれだけ辛いか身に沁みていただけに、ミチのおにぎり持参の案を快諾したのです。

デニム・ブルーママン20の15

 ミチは何としても、お兄さんを紹介したい気迫に満ち溢れ、私も素敵な方なら、一回くらい会ってもいいな…は心深くにありました。教員を辞めてしまうことは、全く頭にはありません。母が亡くなり兄と姉妹で財産を分け、私はそこまで金銭に逼迫した状況にはなかったことで、お見合いしてもいいな…はありました。普賢山(ふげんさん)祭りは4月24日でした。ミチはおにぎりを兄に持たせたいと息を弾ませるのです。